最高裁判所第二小法廷 平成4年(あ)267号 決定 1992年11月27日
主文
本件上告を棄却する。
事実
弁護人浦功、同山田隆夫の上告趣意のうち、憲法三八条二項違反をいう点は、記録を調べても、被告人の自白の任意性を疑うに足りる証跡は認められないから、所論は前提を欠き、憲法三一条違反をいう点は、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」に関して判例違反をいう点は、所論引用の各判例は所論のような趣旨まで判示してはいないから、所論は前提を欠き、同条にいう「業務」に関して判例違反をいう点は、所論引用の各判例は本件と事案を異にし適切でなく、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、弁護人鷹取重信の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件と事実を異にし適切でなく、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
なお、原判決及びその是認する第一審判決の認定によれば、被告人は、部下の消防署職員と共謀の上、町消防本部消防長の業務を妨害しようと企て、ひそかに、消防本部消防長室にある同人のロッカー内の作業服ポケットに犬のふんを、事務机中央引き出し内にマーキュロクロム液で赤く染めた猫の死がいをそれぞれ入れておき、翌朝執務のため消防長室に入った消防長をして、右犬のふん及び猫の死がいを順次発見させ、よって恐怖感や嫌悪感を抱かせて同人を畏怖させ、同日の朝行われる予定であった部下職員からの報告の受理、各種決裁事務の執務を不可能にさせたというのである。右のように、被害者が執務に際して目にすることが予想される場所に猫の死がいなどを入れておき、被害者にこれを発見させ、畏怖させるに足りる状態においた一連の行為は、被害者の行為を利用する形態でその意思を制圧するような勢力を用いたものということができるから、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合に当たると解するのが相当であり、被告人の本件行為につき威力業務妨害罪が成立するとした第一審判決を是認した原判断は、正当である。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官大西勝也)
別紙上告趣意書<省略>